【ネタ】新作落語 ファーストリテイリング
私が考えた新作落語を載せます。
落語 ファーストリテイリング
熊「へへへ、競馬で30万も買っちまったぜ。いやいや、こりゃーどうするかね。30万なんかなかなかなくならないよ。一生は遊んでは暮らせないだろうけど、ド派手な買物の一つや二つはできちゃうよ。・・・、そうだ、とりあえず銀座でも行ってみようかね」
ナ「そう言うわけで、競馬で大儲けした熊さんは銀座に向かったのでした」
熊「おうおうおう! ここが銀座か。こりゃキレイな町だね。え~。大井とは大違いじゃないかい。え~。何を買おうかね。・・・、なんだいこの店は? リンゴの看板があるから果物屋かと思ったら機械しか置いてないじゃないか。紛らわしいことしやがって。・・・、お。ぐっち? グッチ裕三の店か。いや~、流石芸能人だね。銀座に店をだすなんてなかなかできないよ。バッグか、バッグは要らねえな。・・・、うん? スーツか。いいじぇねえか、スーツ。持ってなかったし。アル、アル、アル。なんて読むかわからねえよ! まあ良いや。とりあえず入るか」
店「いらっしゃいませ」
熊「おう! いやなに、表でね、このスーツを見てさ、こりゃ良いな~と思ったから入ってみたのよ」
店「ありがとうございます」
熊「じゃあまあもらおうかな」
店「こちらのスーツでよろしいでしょうか?」
熊「おうおうおう。それな、それ。カッコ良くて良いじゃないか。え~」
店「お客さま、こちらのスーツはオーダーメイドになりますので、サイズを測らせて頂きたいのですが?」
熊「おう? おいら~メイド? いや、別にオイラはメイドじゃねえぜ」
店「いえ、オーダーメイドでございます。お客さま一人一人のサイズに合わせて作るという事でございます」
熊「なんだー! そういう事かよ! だったら始めからそう言えよ! 計ってくれ計ってくれ」
(計る仕草など)
店「それではお客さま、引き渡しは2週間ごになります」
熊「2週間! えれえかかるね。まあいいや。手作りだもんな。わかったわかった。で、いくらだい?」
店「スーツ一点で、25万円になります」
熊「に、に、に、なんだ?」
店「25万円になります」
熊「25万円!! 25万・・・。30万円から25万円もなくなったら、・・・だいたい5,6万円くらいしか残らないじゃねえか。今更いらねえなんて言えないし、30万持ってんだ、ケチケチするこたねえやな。どうせここで使わなくたってなくなっちまうんだ。よし! 買うぞ! (出し渋る動作)・・・、はいよ、25万円」
店「25万円ちょうどお預かりいたします。ありがとうございました!」
熊「おうそうだそうだ。この店、なんて名前の店だ?」
店「アルマーニでございます。イタリアに本店がございますので、ご旅行の際には是非およりくださいませ」
熊「お、おう。イタリアか。暇な時にでも行ってみるわ」
ナ「そんなこんなで熊さんは2週間後にアルマーニでスーツを受取ったのでした」
熊「いや~、買っちゃったね。しかしあれだね。こりゃあせっかく買ったんだから誰かに自慢したいね。・・・、そうだ。八っつあんのやろうにでも自慢してやるかな」
(八っつあん宅へ向かう)
熊「おうおうおうおう八っつあんよ~!」
八「うるさいな~。何だい。熊さんじゃないかい。どうしたんだい突然」
熊「・・・、おめえこそどうした? そんなスーツなんか着て」
八「あ、これかい。いやね、明日友人の結婚式でさ、前に着てたスーツはボロくなっちまったからね、こりゃ良い機会だと思って新しく買って来たんだよ」
熊「は~」
八「そういう熊さんだってスーツじゃないか。どうしたんだよ?」
熊「よ! よくぞ聴いてくれたね。俺はな、競馬でド~ンと当たったもんだからこりゃあなんか贅沢がしたいなと思って銀座に行ったのよ。そしたらカッコイイスーツが飾られてるじゃねえか。こりゃあ良いってわけで買ったんだよ」
八「凄いね~!」
熊「だろ~? しかもだね、そんじょそこらのスーツと比べちゃいけねえよ。こいつはなんつったておいら~メイドなんだからね」
八「おいら~メイド?」
熊「おいら~メイドも知らないのかお前は! 恥ずかしいね。良いかいよく聴けよ、「一人一人のサイズに合わせて作るという事でございます」だよ!」
八「それ、オーダーメイドの事じゃねえのか?」
熊「オ、オ、オーダーメイド・・・。まあそうとも言うかもしれねえな」
八「(小声で)いや、そうとしか言わねえんだよ。ところでそのスーツ、銀座で買ったて事はなかなか良い代物なんじゃねえのか?」
熊「よ! 流石だね、オメガ高い。聴いて驚け。これはな、アニマールってんだよ! フランスだよ!」
八「アニマール? アニマール? アニマール? 熊さんそりゃアルマーニの事じゃねえか?」
熊「ア、ア、アルマーニ・・・。そうだったか? まあそうとも言うかもな」
八「(小声で)いやだから、そうとしか言わねえんだよ。しかも熊さん、それフランスじゃなくてイタリアだぞ」
熊「イタリア! イタリアとフランスは離れてるのかい?」
八「いや離れてはいねえけどさ」
熊「じゃあ同じじゃねえかよ!」
八「・・・、いや同じじゃねえよ」
熊「うるせえな。ところでおめえのそのスーツはどこのブランドなんだよ?」
八「これかい。これはまあファーストリテイリングだよ」
熊「ファ! ファ! ファなんだい?」
八「ファーストリテイリングだよ」
熊「ファーストリテイリング? ・・・、聞いた事ねえな。そりゃあ有名なのかい?」
八「そりゃ有名に決まってるじゃねえかよ。熊さん知らないのかい?」
熊「うるせえな。俺にだって知らない事くらいあるんだよ。でもそれ、一流ブランドかい?」
八「まあ、・・・、一流って言えば一流だわな」
熊「は~。で、そのスーツはどこの国のスーツなんだい?」
八「どこの国のって、それはどういう意味だよ熊さん」
熊「どういう意味も何も、そのままの意味に決まってるだろ。どこの国でこしらえてるのかってこと以外何があるんで」
八「そういう意味か。まあ、これはたぶん、ベトナムだろうな」
八「まあベトナムは海外だろうな」
熊「ちょっと聞くけど、イタリアも海外だよな?」
八「イタリアも海外だな」
熊「・・・、じゃあ同じだな」
八「同じじゃねえよ!」
熊「・・・、なんかこうして見てるとそっちのスーツの方が良さそうに見えて来るな。ファ、ファ、ファなんだっけ?」
八「ファーストリテイリング」
熊「そうそう、そのファーストリテイリングな」
八「・・・、なんだい熊さん、このスーツが欲しいのかい?」
熊「バカヤロウ! 欲しいわけねえだろ! ちょっと気になってるだけだよ」
八「・・・(企み笑いを浮かべる)、交換してやろうか?」
熊「おう! 本当か?」
八「本当だよ本当」
熊「あとで返せって言わねえか?」
八「言わねえよ」
熊「本当にか?」
八「本当にだよ」
熊「良し! そこまで言うなら交換してやら」
ナ「ってなわけで、なんと熊さんはアルマーニのスーツをファーストリテイリングのスーツと交換してしまったわけです」
八「ははは。馬鹿だね熊のやつは。ファーストリテイリングも知らないのか。こりゃあずいぶん得しちゃったな~。ラッキーラッキー」
リ「そうして一流ブランドのファーストリテイリングのスーツを手に入れた熊さんはまた銀座に繰り出すのでした」
熊「いや~、まだ少しばかし金も余ってる事だし、何かうめえもんでも食うか。しかし何が良いかね? 寿司なんかありきたりだしな。・・・、懐石料理か、なんか違うな。・・・、お、イタリアンね~。イタリアってえと確か、フランスの近くでベトナムと同じ海外だったな。良いじゃねえか! え~、イタリアン! 良いね~。よしここにしよう」
店「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
熊「「お一人様ですか?」っておめえにゃ俺の隣に誰か見えてるのかい? え~、やめてくれよ薄気味悪い。どう見たって一人だろ」
店「お一人様ですね」
熊「一人だよ!」
店「こちらのお席へどうぞ。こちらメニューになっております」
熊「おうおうおう。え~なになに。・・・、カルボナーラ? なんだこのオナラみてえな名前は。え~。・・・、マルガリータ? 丸刈り? 何を丸刈りにしてんだ? わけわかんねえな。・・・、ゴル、ゴンゾーラ? えれえゴツゴツした名前だな。え~。なんだかよくわかんねえからな~。これでいいや。ちょっと! おーい!」
店「はい、お決まりでしょうか」
熊「おうおうおう。この、ゴル、ゴンゾーラってやついっちょ」
店「ゴルゴンゾーラをお一つですね。かしこまりました」
熊「・・・イタリアンだからね、海外だからね、さぞ美味いもんがでってくるんだろうな」
店「お待たせいたしました。ゴルゴンゾーラでございます」
熊「おっと、スーツにかからないように気おつけてくれよ。なんつったってこれは、(スーツをビシッとやる動作)ファーストリテイリングのスーツ、なんだからよ。おめえの月収じゃとてもじゃないけど買えねえ代物だよ。え~。なんつったて一流ブランドだからね」
店「? ゴルゴンゾーラでございます」
熊「おう! 美味そうじゃねえか。良い香りがして(嗅ぐ動作)、クッセー! これ腐ってんじゃねえのか? え~? ちょっと! これ腐ってんだけどよ。匂い嗅いでみろよ」
店「(嗅ぐ動作)いいえ、ゴルゴンゾーラの良い香りでございます」
熊「そんなわけねえだろうがよ! こんなクッセーもんがよ。よく見りゃカビだって生えてるじゃねえか。ぜってえ腐ってんだろ」
店「イタリアから直接輸入いたしました本場のゴルゴンゾーラを使用していますゆえ、国産の物に比べて多少匂いはキツくなっておりますが・・・」
熊「おっ! ちょっとまて、いまイタリアから輸入したっつったな?」
店「はい。イタリアから輸入しております」
熊「イタリアってえと~、フランスの近くだろ?」
店「・・・、さようでございます」
熊「するってえと~、ベトナムと同じ海外だろ?」
店「・・・、さようでございます」
熊「ほら~、海外から運んでんだろ? それ移動中に腐っちまったんだよ。腐ってんだろ? これどう見ても」
店「・・・、まあ、腐ってますよ! チーズですから」
熊「認めたね~。だから言ったじゃねえかよ。え~。腐ってるってよって。ったく、酷い店に来ちゃったな~。客に腐ったもん出しやがってよ。いいやいいやもう。こんな腐った料理食いたかねえな。なんか飲んで帰るか。飲みもんないのかい? 飲みもん」
店「こちらドリンクメニューになっております」
熊「・・・、カップチーノ、カフェラッテ、エスプレッソ? ・・・、カップチーノ、カフェラッテ、エスプレッソ? カップチーノ! カフェラッテ! エスプレッソ! ・・・、エスプレッソ。しっくりくるな。これでいいや。ちょっと!」
店「お呼びでしょうか」
熊「おうおうおう。この、エスプレッソ! ってやつ一つくれるかい」
店「エスプレッソでございますね。かしこまりました」
熊「あっ。ちょっと」
店「はい」
熊「そのエスプレッソ! ってやつは腐ってねえよな?」
店「腐っておりません」
熊「そうか、そりゃ良かった」
(少しの間)
店「お待たせいたしました。エスプレッソっでございます」
熊「おっ、来たね。・・・、っちっせー! てめえ人を馬鹿にするのもいい加減にしやがれ! え~。腐った料理出してみたり、こんなちっちゃな飲みもん出してみたり。え~。こんなもん一口でおわっちまうじゃねえかよ! (一口で飲み、苦くて吹き出す)ブゥー! 渋い味だね~。てめえ味見したのかい! こんな苦いもん出しやがって! 飲めたもんじゃねえよ。しかしひでえ店だね。え~。よく見りゃお前のなりだってひでえじゃねえか! ずいぶんと安そうなスーツ着やがって。てめえそれどこのブランドだよ?」
店「ユニクロでございます」
熊「ハッ。やっぱりどおりで安そうに見えるわけだ。俺のファーストリテイリングのスーツとは大違いだね」
終わり